外壁調査は、建物の安全性や機能性だけでなく、美観性なども保つために、外壁の状態をくまなくチェックする調査です。外壁は夏の暑さ、冬の寒さという激しい気温差に加え、風雨や紫外線にさらされ続けるため、経年劣化や損傷を避けることができません。事故などが発生しないよう、定期的な外壁調査を行い、早期に問題を発見し、適切な対策を講じることが大切です。主な外壁調査の調査方法に加えて、2022年の法改正で打診と同等以上の精度が確認された赤外線カメラを搭載したドローンによる外壁調査に関する内容なども詳しく解説します。
外壁調査とは
外壁調査は建物の外壁の状態を詳細に確認し、劣化や損傷の有無を評価するために行います。雨や風、雪、気温差、直射日光といった自然環境は、建物の外壁に多様な経年劣化をもたらします。劣化の程度を把握し、問題点を早期に発見して適切に修繕することは、建物を適切に維持管理するために必要不可欠です。また建物によっては建築基準法によって外壁調査が義務化されています。
外壁が劣化して起きる現象は?
外壁が劣化すると建物の外観が悪化し、貼り付けてあるタイルに浮きが出たり、モルタルに膨らみが出たり、あるいは目地にひび割れが発生したりします。浮きの状態が進むと、最悪の場合には外壁のタイルが剥落してしまいます。
外壁の劣化に対して適切な処置を施さない場合、外壁の一部が落下して歩行者に当たるなど、重大な事故を引き起こす危険性があるのです。1989年、北九州で発生した外壁タイルの剥落事故ではお二人の方が亡くなっています。
これらのリスクを軽減させるためにも、外壁調査が必要です。
外壁調査を行うタイミングとスパンは?
国土交通省は平成20年国土交通省告示第282号において、「おおむね6ヶ月から3年以内に一度の手の届く範囲の打診等に加え、おおむね10 年に一度、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の全面的な打診等を行うこと」とされています。
また、建築基準法12条では国が政令で指定する一定の用途・規模の建築物、あるいは全国の各特定行政庁が指定する建築物のことを指します。一般的には、不特定多数の人が利用する建築物が指定されています。
特定建築物として指定されている建物は定期的な調査を実施し、特定行政庁に報告する義務があります。調査対象は管轄の特定行政庁や建物用途、大きさなどにより、年1回、2年に1回、3年に1回、と調査の回数が決められています。
https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/toshiseibi/pdf_kenchiku_chousa-houkoku_ch_2_01
定期報告が必要な特定建築物・防火設備・建築設備・昇降機等及び報告時期一覧(東京都)
この点検で亀裂やひび割れなどの危険な箇所が見つかった場合は、全面的な外壁調査を依頼し、必要な箇所の修繕を行いましょう。また、建築基準法第101条で、定期報告をしなかったり、あるいは虚偽の報告をしたりといった場合、100万円以下の罰金が科せられます。ご注意ください。
外壁調査の方法
外壁調査の方法は次の2つの方法があります。
- 打診調査
- 赤外線調査
打診調査は、ハンマーや専用の打診棒を用いて外壁を叩き、その反響音を聞くことで内部の状態を判断する方法です。異常のある部分を叩くと正常な部分とは違う音がするため、見た目ではわからない隠れた異常も見つけられます。
一方、赤外線調査は、赤外線カメラを使用して、外壁の表面温度を測定し、その温度分布を画像として視覚化する方法です。
外壁に浮きや剥がれがある場合、正常な部分と比べて表面温度が異なります。その温度差から異常の有無を判断できます。
外壁調査はこうした流れで行います
外壁調査は、次のようなプロセスで行うのが一般的です。
- 業者を探して問い合わせる
- 見積もり依頼をする
- 契約を締結し調査してもらう
- 調査報告をもらう
- 特定行政庁に報告書を提出する
では一つ一つ見ていきましょう。
業者を探して問い合わせる
まず、外壁調査を依頼するためには、信頼できる業者を見つけることが重要です。インターネットで検索し、口コミや評価を確認します。
また、インターネットで適切な調査業者が見つからない場合、行政機関に問い合わせる方法もあります。
各都道府県の建築部や建築局の建築指導課が外壁調査の相談に対応しています。東京都の公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンターのように外郭団体が対応している場合もあります。電話やメールで調査業者について相談されるとよいでしょう。
見積もり依頼をする
外壁調査の依頼を検討する際、最初から1社だけに絞らず、複数の業者に問い合わせて、見積もりを依頼して比較しましょう。
調査費用は、外壁の規模や調査方法に応じて見積もりが出されます。業者によっては、見積もりのために事前の現地調査を行うこともあります。
各業者から見積書が揃ったら、価格やサービス内容などを比較検討し、最適な業者を選ぶようにしましょう。
契約を締結し調査してもらう
1社に選定したら、契約を締結し調査してもらいましょう。
目視・打診調査の場合、まず調査員が建物の外壁を直接観察し、表面的な異常を確認する作業を行います。そこで目地やタイルにひび割れや剥がれ、変色などの目に見える異常や問題点が記録されます。目視調査の後、打診調査でより詳細な調査が実施されることになります。調査期間の目安として、打診調査は数日から1週間程度となります。打診調査は足場が必要となるため、その組み立てと解体にそれぞれ1日程度かかります。
一方、ドローンを利用した外壁調査は異常箇所の特定や状況把握のために、通常の可視カメラと赤外線カメラの両方を搭載したドローンを飛ばして、2つのカメラで同時に、全体を撮影します。赤外線調査は1日で完了することが一般的です。
調査報告をもらう
調査報告をもらいます。この報告書には、発見された異常箇所の詳細が含まれます。調査結果は建物の所有者や管理者に提出され、今後の修繕計画の基礎資料や特定建築物定期報告のための調査報告書となります。
特定行政庁に報告書を提出する
建築基準法第12条における特定建築物の定期報告に利用する場合、防災設備や昇降機の調査結果と一緒にまとめて、特定行政庁に報告書として提出します。
報告先となる「特定行政庁」は、建築主事を置いている市町村の場合は市町村長、建築主事を置いていない市町村の場合には都道府県知事となります。
建築主事は建築確認の申請、検査の確認などを取り扱う公務員です。人口が25万人以上の自治体には必ず建築主事という公務員を置くことになっています。建築主事が置かれた市や都道府県が「特定行政庁」となります。
25万人未満の市区町村の場合、その市町村が所属している都道府県が管轄の特定行政庁となります。注意が必要なのは25万人未満でも特定行政庁となっている市もあります。管理されている建物の特定行政庁がどこになるのかは役所などで確認してください。
また、12条点検報告書の提出先は特定行政庁になっているのですが、多くの場合は市町村や都道府県が委託している一般財団法人などが提出窓口となります。
数年ニーズを伸ばし続けている赤外線調査とは
外壁調査には「打診調査」と「赤外線調査」があります。
近年、外壁の温度差を計測する「赤外線調査」が普及してきました。2022年、法改正が行われ、赤外線調査が打診調査と同等以上の精度があると確認され、赤外線カメラを搭載したドローンによる外壁調査の需要が高まっています。
外壁の異常箇所は、通常の箇所と異なる温度を持つため、赤外線カメラを搭載したドローンによる外壁調査では撮影した画像で、内部の劣化や損傷を推定することが可能です。
この方法は非破壊検査と呼ばれる方法であり、外壁を実際に壊したり傷つけたりすることなく、内部の状態を確認できるため、建物の構造に影響を与えずに詳細な調査ができるのが特徴です。
正確な赤外線調査に必要なキャリブレーション
タイルの浮きが赤外線画像にどのように写るかは環境によって差があります。そのため弊社では調査開始前に、打診によって浮きが確認できた箇所を赤外線でサンプル撮影し、どのように写るかを確認することで、赤外線解析の基準を最適化しています。この作業はキャリブレーション(校正作業)と呼ばれ、法定点検に赤外線調査を用いる場合には必須の作業となっています。
国土交通省が出している定期報告のガイドラインでも次のように打診とのキャリブレーション実施についての記載があります。
赤外線調査による浮きの検出状況の確認及び撮影開始時刻の決定のため、調査の実施に先立ち、同一部位において打診と赤外線調査を実施。
国土交通省「赤外線調査(無人飛行機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン 概要」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000161.html
キャリブレーションの様子
まずは、打診調査を行い浮きの怪しい箇所を特定
赤外線カメラで撮影
浮いている箇所の反応をこの日の基準とし、それ以外の手が届かない範囲で赤外線撮影した温度変化を色分けによって示します。
時間による温度変化を把握しておく
赤外線調査の撮影時間による温度変化
ドローンフロンティアの赤外線を利用した外壁調査では、時間ごとによる日照の角度を把握することができます。この機能によって、何時に日が当たりやすく、壁面の温度が上がるかを想定してから調査時間を決めることができます。
このように、時間を分けて複数回数撮影することが、より正確な分析ができる方法となります。
赤外線による外壁調査のメリット
赤外線による外壁調査も万能ではありません。ここでメリットとデメリットを比較してみましょう。メリットは、主に以下の通りです。
- コストを削減できる
- 安全性が高い
- 工期を短くできる
コストを削減できる
赤外線調査の大きな利点は、迅速かつ非破壊で建物の状態を評価できることです。
従来の調査方法では足場を組んで調査する必要がありましたが、赤外線調査では足場を組む必要がありません。
赤外線カメラを使用することで、外壁の表面温度を測定し、内部の異常箇所を推定できます。これにより、調査にかかる時間と労力が大幅に削減されます。
安全性が高い
赤外線調査は、高所作業を伴わないため、調査員の安全が確保されます。
従来の外壁調査では、建物の外壁全体を確認するために高所での作業では足場を組んだり、ゴンドラを使用したりして行う必要がありました。
これらの作業は、高所からの転落や落下物による事故のリスクが伴います。
一方、ドローンを使用した赤外線調査では、地上から赤外線カメラを搭載したドローンを操縦して外壁全体を撮影するため、高所での危険な作業が不要になります。
これにより、調査員が安全に作業を行うことができ、事故のリスクを大幅に減少できるのです。
工期を短くできる
赤外線調査は、現場での作業が短期間で完了します。これは、赤外線カメラで調査箇所を撮影するだけで済むからです。
さらに、赤外線調査は足場の設置を必要としないため、足場の組み立てや解体にかかる時間も削減できます。
外壁のタイルに浮きが見えた、外壁のタイルが剥落してしまったなど、緊急で調査が必要となった場合、短期間で実施できる赤外線調査がおすすめです。
赤外線による外壁調査のデメリット
一方、赤外線による外壁調査のデメリットは主に以下の通りです。
- 天候条件の影響
- 建物によっては調査が困難な外壁材も
天候条件の影響
赤外線調査は、外壁の表面温度を測定し、その温度分布から異常箇所を推定する手法です。外壁の温度差を利用するため、天候条件が大きく影響します。例えば、日較差が小さい日では、微細な温度差が見えにくくなり、異常箇所の推定が難しくなることがあります。そのため、赤外線調査では可能な限り晴天の日に調査を実施する必要があります。
建物によっては調査が困難な外壁材も
金属製などの反射率が高い外壁材を使用している建物では、赤外線カメラが正確な温度データを取得することが難しくなることがあります。金属は熱を反射しやすいため、赤外線カメラでの温度測定が不正確になることがあるのです。
また、複数の異なる素材で構成されている特殊な外壁の場合も問題が発生します。異なる素材はそれぞれ異なる熱伝導特性を持っており、赤外線カメラでの温度測定が一貫しない結果をもたらしてしまう可能性があります。
ドローンによる赤外線外壁調査の費用
1,000㎡の建物における調査において、従来の足場を組んでの打診調査を行った場合、約100万円かかるところが、同じ建物をドローンの赤外線で外壁調査を行った場合、約30万円で済んだという事例がありました。約70%のコストカットができる計算になります。
ドローンの赤外線外壁調査費用は、調査対象物件の規模や、ドローンを飛行させるための特殊な申請の有無等の条件によって変動いたします。ドローンフロンティアではこれまでに30%から70%のコストカットを実現できた事例があります。
赤外線調査はドローンフロンティアへお任せください!
外壁調査は、建物の安全性や機能性などを保つために必要な調査で打診調査と赤外線調査があります。
調査方法には、打診調査とドローンを使用した赤外線調査という2つの方法があり、最近は特に赤外線調査の需要が高まっています。
ドローンによる赤外線調査は、従来の調査方法とは異なり、工数が減るため、コストが抑えられたり、安全に作業ができたりするなどのメリットがあります。
弊社では、ドローンを活用した赤外線調査を行っており、マンションだけでなく、商業施設やホテル、学校など多様な場所で点検作業を実施しています。
また、ロープアクセスによる打診調査も行っており、お客様の建物の状況に応じた外壁調査が可能です。外壁調査をご検討の際、お気軽にお問い合わせください。