赤外線調査

外壁診断の必要性と劣化の兆候、主な調査方法や補修のタイミング

投稿日:2025年6月19日 更新日:

建物の外壁は常に雨風や日光にさらされ、年月とともに劣化が進みます。ひび割れや外壁材の浮きといった劣化を放置すると、外壁の一部が剥がれ落ちて周囲に被害を及ぼす危険性があるため注意が必要です。また、劣化が原因で外壁から雨水が侵入すると建物内部の腐食やカビ発生につながり、建物の寿命にも悪影響を与えかねません。

こうした事故や深刻な損傷を防ぎ建物の安全性を保つには、定期的な外壁診断によって早期に劣化を発見し、適切な補修を行うことが重要です。

外壁診断の必要性

外壁診断とは、建物の外壁に生じた劣化や損傷の状況を専門家が調査し評価することです。外壁は建物の中でも特に劣化が生じやすい部分であり、適切な診断と補修を怠れば外壁材の剥落事故や雨漏りなど大きなリスクを招きます。実際に、過去には外壁タイルの剥落によって歩行者が死亡する事故も発生しており、その教訓から建物の外壁診断に関する指針や制度が整えられてきました。

建築基準法第12条に基づく「定期報告制度」では、不特定多数の人々が利用する一定規模以上の建築物(特定建築物)に対し、竣工後または前回の改修・調査からおおむね10年ごとに外壁の全面調査を実施することが義務付けられています。

これは、タイルやモルタル仕上げの外壁が経年劣化で構造から浮いて剥落しないよう、専門的な外壁診断を定期的に行うことで安全を確保するためです。また、特定建築物以外の一般の建物でも、外壁の劣化を放置すれば建物の美観や性能低下のみならず、将来的に高額な修繕費用がかかる恐れがあります。

こうした理由から、建物の種類や規模に関わらず外壁診断を適切なタイミングで行うことが重要と言えます。

外壁の劣化の兆候

日常的に建物の外壁を観察することで、劣化の兆候を早めに察知できる場合があります。以下のような症状が見られたら、外壁が劣化している可能性が高いため注意が必要です。

    • ひび割れ(クラック)

コンクリート壁やモルタル仕上げの外壁に線状のひびが入った状態です。幅が0.3mmを超えるような大きなひび割れは雨水が侵入しやすく、構造体の腐食を招く恐れがあります。

    • 外壁材の剥がれ・浮き

タイルや塗装片が部分的に剥がれて落下したり、タイル内部に隙間が生じて浮いている状態です。見た目に大きな異常がなくても、タイルの裏に空洞ができていると打診時に軽い音が響きます。放置するといずれ剥離して落下する危険があります。

    • 塗装面の劣化

外壁塗装した面で色あせや変色が見られたり、触ると白い粉が付着するチョーキング現象が起きている状態です。塗膜が劣化して防水性能が低下しているサインであり、塗料の剥がれや膨れが見られる場合は早めの再塗装が必要です。

    • シーリングのひび割れ

パネル外壁やタイル目地に用いられるシーリング材(コーキング)が硬化してひび割れたり、隙間ができている状態です。シーリングの劣化を放置すると、その隙間から雨水が壁内部に侵入し、下地の腐食や漏水の原因となります。

上記のような劣化症状を見つけた場合は、できるだけ早めに専門家による外壁診断を受け、必要な補修策を検討することが望ましいでしょう。

外壁診断の主な調査方法

建物の外壁診断には、外壁の状況や目的に応じてさまざまな調査方法が用いられます。従来から実施されてきた方法としては目視調査打診調査があり、近年では赤外線サーモグラフィ調査の活用も広まっています。それぞれの概要と特徴は以下の通りです。

外壁の目視調査

外壁診断ではまず目視調査が基本となります。調査員が建物の周囲を歩きながら外壁を観察し、ひび割れや剥離などの劣化症状を確認します。必要に応じて双眼鏡や高倍率カメラを使って肉眼では見えにくい高所もチェックします。

ただし目視だけでは表面に現れにくい内部の劣化を見逃す可能性もあるため、他の調査方法と併用して総合的に判断することが重要です。

外壁の打診調査

打診調査は、専用のテストハンマー(小さい金属製の打診棒)を用いて外壁を軽く叩き、その音の違いで内部の状態を調べる伝統的な手法です。タイルやモルタルが健全な部分は澄んだ音がしますが、劣化して浮きがある部分は音が変化して濁った音になるため、目に見えない浮きの検出が可能です。

打診調査を行うには調査員が直接外壁に触れる必要があるため、手の届かない高所では足場や高所作業車、ロープアクセス(ブランコ作業)などによる作業体制が必要になります。その分、調査に時間と費用がかかりますが、直接触れて確認する分精度が高い調査方法です。

ただし強風時など天候が悪い日は高所での打診作業は安全上困難となる場合があります。

外壁の赤外線サーモグラフィ調査

赤外線調査は、外壁表面の温度分布を赤外線カメラで計測し、わずかな温度差から劣化箇所を推定する手法です。外壁の内部に空洞があると周囲と比べて温度の変化が現れるため、タイルの浮きや断熱材の劣化、水分の浸入箇所などを非破壊で検出できます。

赤外線サーモグラフィ調査は足場を組まずに広範囲を短時間で調べられる利点がありますが、気象条件に左右されやすい面もあります。雨天や外壁が冷え切っている冬季には温度差が出にくく、調査精度が低下するため基本的に晴天の日中に実施する必要があります。

また、外壁の仕上げ材によっては赤外線の吸収・放射特性が異なり、素材によって調査の向き不向きがある点にも留意が必要です。

赤外線調査は地上に設置した赤外線カメラで行う方法と、ドローン(無人航空機)に赤外線カメラを搭載して高所を近接撮影する方法があります。従来は地上から見上げる形でサーモグラフィを撮影していたため高所では精度確保が難しいケースもありましたが、ドローンを活用すれば外壁を真正面に近い角度から撮影できるため、遠距離・斜角からの撮影よりも正確な温度データを取得できるという利点があります。

調査対象や建物環境に応じて、打診と赤外線の手法を適宜組み合わせることで、外壁診断の精度と効率を高めることが可能です。

ドローンを活用した外壁診断のメリット

ドローンを活用した外壁診断には多くの利点があります。高解像度カメラや赤外線カメラを搭載したドローンで外壁を近接かつ真正面から撮影できるため、細かなひび割れなどの劣化も発見しやすく精度の高い診断が可能です。

また、人が高所に登らずに済むことで作業員の墜落リスクが大幅に低減し、足場や高所作業車が不要になる分コストや日数の削減にもつながります。

さらに、ドローンで撮影した画像データは静止画や動画として記録に残せるため、点検結果を後から詳細に確認できるほか、過去の記録と比較して劣化の進行具合を把握することにも役立ちます。

ドローンを外壁診断に活用する具体的なメリットとして、次のような点が挙げられます。

【調査コストの削減】
仮設足場の設置や高所作業車の手配が不要になり、必要な人員も少なくて済むため、従来方法に比べ外壁診断のコストを大幅に抑えられます。国土交通省の試算によれば、ドローンと赤外線を活用した調査は従来の打診調査より約4割のコスト削減効果があったと報告されています。

【作業の安全性向上】
ドローンによる外壁診断では調査員が危険な高所に立ち入らずに済むため、墜落や転落事故のリスクをほぼゼロに近づけることができます。また、足場や吊り下げ用ゴンドラ自体の転倒・落下事故の心配もなくなるため、建物周辺の安全性確保にも寄与します。

【広範囲を短時間で調査】
ドローンは飛行によって短時間で建物全体の外壁をまんべんなく点検できます。一度に広範囲をカバーできるため、調査にかかる日数を大幅に短縮でき、入居者や周辺への影響も最小限で済みます。

【高精度なデータ取得】
ドローンに搭載した高性能カメラで外壁の高解像度画像を取得でき、赤外線カメラで温度分布データも記録できます。人の目視では見落としがちな微細なひび割れや、赤外線でなければ分からない内部の劣化も検知可能です。これにより従来より正確で詳細な診断結果が得られます。

【記録の蓄積と活用】
ドローンで撮影した映像はデジタルデータとして保存できます。定期点検のたびにデータを蓄積していくことで、劣化傾向を長期的に追跡し、将来の補修計画に役立てることができます。

もっとも、ドローンによる外壁診断にも留意点があります。飛行には法律上の許可や十分な安全対策が必要であり、強風時や降雨時には調査を延期する判断が求められます。そのため、実際にドローン点検を行う際は、専門知識と技能を持った業者に依頼し、安全管理を徹底することが大切です。

近年では国土交通省の告示改正により、一定の精度を満たしたドローン搭載赤外線調査が公式に外壁診断の手法として認められたことも追い風となり、ドローン活用はますます普及していくでしょう。

外壁補修のタイミングと予防保全

外壁診断の結果、劣化や不具合が見つかった場合には、適切な補修工事を計画する必要があります。では、どのようなタイミングで補修を行うべきなのでしょうか。

一般的に、外壁のメンテナンス周期は築7~10年程度が目安と言われます。新築から10年ほど経過すると、塗装の防水機能低下やシーリング材の劣化が進み、ひび割れや塗膜の剥がれが現れ始めるためです。実際に、多くの建物では築10年前後で外壁の再塗装やシーリング打ち替えなどの大規模修繕が計画されます。

ただし、劣化の進行スピードは建物の構造や立地条件、使用材料によって異なります。

例えば海沿いの建物は塩害で劣化が早まることがありますし、強い直射日光を長時間受ける壁面や、風雨の当たりやすい方角の壁は他より早く傷みやすくなります。そのため、「まだ築年数が浅いから大丈夫」と決めつけず、定期的な診断と必要に応じた軽微な補修を繰り返すことが重要です。

小さなひび割れやシーリングの劣化など軽度な不具合のうちに早めに対処しておけば、補修範囲が広がるのを防ぎ、結果的に修繕コストを抑えることにもつながります。逆に外壁の不具合を放置すれば、雨水の侵入による下地腐食や断熱性能の低下といった問題が深刻化し、後から大規模な改修工事が必要になる恐れがあります。

建物を長持ちさせるには、予防保全の考え方で計画的に外壁診断と補修を実施することが大切です。定期的な点検によって建物の状態を把握し、適切な時期に必要なメンテナンスを行うことで、建物の安全性・快適性を維持するとともに資産価値の低下も防ぐことができます。

プロの外壁診断で安心と安全を確保

外壁診断は高度な専門知識と経験を要するため、信頼できる専門業者に依頼するのが確実です。

ドローンフロンティアでは、赤外線カメラ搭載ドローンを用いた外壁診断サービスを提供しており、国土交通省の技能認証を持つパイロットや赤外線建物診断技能士など有資格者が調査を担当します。人が近づきにくい高所部分も安全かつ効率的に点検し、精度の高い診断結果と報告書をご提供します。

外壁診断の実施をご検討の際は、ドローンフロンティアにご相談ください。

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