赤外線調査

タイル貼り外壁の落下リスクと劣化診断方法 ~ドローンを活用した外壁点検~

投稿日:2025年6月27日 更新日:

近年、多くの建物で採用されているタイル貼りの外壁は、年月の経過とともに劣化が避けられません。外壁タイルの劣化によって接着が弱くなり「浮き」「剥がれ」が生じたまま放置すると、やがてタイルが落下して周囲の人や物に危害を及ぼすリスクがあります。

実際に外壁タイルの落下事故は毎年のように報告されており、最悪の場合は死亡事故に発展したケースもあります。こうした事故が起きた場合、建物の所有者が民法上の損害賠償責任(民法第717条)を負うことになるため、 タイル貼り外壁の落下リスクを正しく理解し、劣化の兆候を診断する方法を知っておくことが重要 です。

本稿では、タイル貼り外壁の劣化や剥落の原因、外壁タイル落下事故のリスクと法的な点検義務、そして劣化を発見するための点検・診断方法について解説します。特に 近年普及が進むドローンを活用した外壁調査の特徴も紹介 します。

タイル貼り外壁の落下リスクと責任

外壁タイルが落下すれば、歩行者や建物周辺の人に怪我を負わせたり、物品を破損させたりする危険があります。実際に日本では、経年劣化したタイル貼り外壁からタイルが剥がれ落ち、人身事故につながった例が報告されています。

1989年には北九州市でビル外壁のタイル下地モルタルが大規模に剥落し、通行人2名が死亡する痛ましい事故が発生しました。この事故を契機に外壁点検の法整備が進みましたが、その後も各地で外壁タイルの落下事故自体は毎年起きており、負傷者が出るケースもあります。

万が一外壁タイルの落下事故が起こると、その責任は建物所有者(または管理組合)が負うことになります。民法第717条では、 建物の設置や保存に欠陥があって他人に被害を与えた場合、建物の占有者・所有者が損害賠償責任を負う と定められています。被害者への補償だけでなく、社会的信用の低下や裁判などの大きな問題に発展する可能性もあるため、外壁タイルの落下事故は絶対に避けなければなりません。そのためには、日頃から劣化の兆候を見逃さず点検・補修を行い、事故の予防に努めることが求められます。

※タイル貼り外壁の落下リスクや注意点についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。

タイル外壁のデメリットと注意点 – 耐久性・落下リスク・維持コストを解説

外壁タイルの劣化と剥落の原因

では、なぜ外壁のタイルは時間とともに剥がれてしまうのでしょうか。主な原因は経年による建材の変化と環境要因です。

異なる素材の経年変化によるタイルの浮き

外壁はコンクリート躯体の上にモルタルを塗り、その上にタイルを貼り付けた構造(湿式工法)が一般的です。コンクリート・下地モルタル・タイルという異なる素材は、気温や湿度の変化によってそれぞれ膨張・収縮しますが、その伸縮率の違いにより境界部分に微細なズレや応力が生じます。築年数の経過とともにこのズレが累積し、タイルの付着力が低下して部分的に浮きが発生します。

雨水の浸入による劣化の進行

タイルが浮いて隙間ができると、そこから雨水が浸入しやすくなります。一度水分が入り込むと、 乾燥と湿潤の反復によるモルタルの膨張・収縮で浮きがさらに拡大し、接着力の低下が加速 します。その結果、タイルは自重に耐えきれなくなり剥落(完全に剥がれて落下)に至ります。また寒冷地では浸入した水分の凍結膨張によっても劣化が進みます。このように経年劣化によるタイル剥がれは、どんな建物でも避けられない現象です。

施工不良による剥落リスク

上記のような自然劣化以外に、建築当初の施工不良が原因でタイルが剥がれるケースもあります。下地コンクリートの清掃不足や目荒し不備、モルタルの乾燥不良(ドライアウト)、タイル圧着不足といった施工上の欠陥があると、築年数が浅いうちに広範囲でタイルの浮きが発生し、早期に剥落事故につながる危険があります。 竣工後数年程度で外壁タイルの落下が生じた場合は施工不備の可能性 も疑われるため、専門家による調査を検討すべきでしょう。

※外壁タイルの浮きや剥落についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。

外壁タイルの浮きとは?原因・点検方法と補修、維持管理の重要性

外壁点検の法的義務

外壁タイルの落下事故を防止するため、建物所有者には定期的な外壁点検の法的義務が課せられています。

特に不特定多数の人が利用する大規模なマンション・ビル等(特定建築物)については、2008年の建築基準法施行規則改正により 竣工または外壁改修から10年経過時に外壁全面の調査を実施し、所管行政へ報告 することが義務づけられました。対象となるのはタイル貼り仕上げやモルタル仕上げなど、剥落すると通行人等に危害を及ぼす恐れのある外壁です。

例えば建物の高さの半分以上が公道に面するようなケースでは、その外壁全体が調査対象になります(庇や植栽で人が立ち入らない部分は除外される場合あり)。この全面外壁調査はその後もおおむね10年ごとに繰り返し実施し、結果を報告しなければなりません。また、法令では日常的な外壁点検についても「6ヶ月から3年ごとに手の届く範囲の打診等を行う」ことが求められています。

法律で定められた外壁調査を怠ると罰則の対象となります。建築基準法第101条では、 定期報告を怠った建物所有者等に最大100万円以下の罰金 を科す可能性が規定されています。実際に特定建築物の調査・報告を怠って行政指導を受けた例もあり、オーナーや管理者は建物の築年や前回改修の時期を把握して計画的に点検を実施する必要があります。

さらに、報告義務を果たしていない状態で外壁落下事故が発生すると、管理責任が一層厳しく問われることになります。社会的信用の失墜や多大な賠償リスクを招かないためにも、法令に従った定期点検を確実に行うことが肝要です。なお、法の定めがない中低層の建物であっても、安全と資産価値維持のために自主的に外壁点検を実施するケースが増えています。いずれの建物においても、早めの劣化発見と適切な対策が大切だと言えるでしょう。

※外壁調査・点検の法的義務についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。

外壁打診調査は義務?建築基準法が定める理由と調査方法を解説

外壁タイルの劣化診断と点検方法

タイル貼り外壁の劣化を早期に発見するには、定期的な点検適切な診断手法が欠かせません。まず日常の管理として、建物の外観に異常がないか目視点検を行うことが重要です。外壁に次のような危険症状が見られる場合は注意が必要です。

  • ひび割れ(タイルに亀裂が入っている)
  • 目地材の隙間(タイル間のシーリングやモルタルが痩せて隙間ができている)
  • エフロレッセンス(白華現象)(表面に白い粉やシミ状の堆積物が現れている)

ひび割れは内部でタイルが浮き始めている可能性を示し、目地の隙間はタイルが動いている兆候です。また白華現象が見られる場合、壁内部に雨水が浸透している可能性が高く、剥落の前触れともなります。こうした異常を発見した際には、建物全体の外壁調査を実施すべきです。

※外壁タイルのメンテナンスについての詳細は、こちらの記事をご覧ください。

外壁タイルの点検義務とメンテナンス不足で後悔しないために知るべきこと

専門業者による外壁調査の方法には、大きく分けて打診調査赤外線調査(サーモグラフィによる非破壊検査)の2種類があります。それぞれの特徴を以下に解説します。

施工不良

打診調査による点検

打診調査は昔から行われてきた伝統的な外壁診断方法です。調査員が仮設足場やゴンドラ、もしくはロープアクセスで外壁に近接し、打診棒でタイル面を一つ一つ叩いて異常を確認します。浮きのある部分は音が変化するため、経験豊富な技術者であれば音の違いから小さな浮きや剥離箇所も正確に発見できます。 同時に目視でタイルのひび割れや欠損の度合いも詳しく確認できるため、補修が必要な部位を的確に把握できるのが利点 です。

ただし作業には 高所での足場設置や重機が必要になり、調査範囲や建物高さによってはコストや日数がかかる点がデメリット です。周囲の状況次第では足場やブランコ作業が困難な場合もあり、従来の打診法だけで調査を行うには限界があることも事実です。

赤外線調査(ドローン活用)による点検

赤外線調査は、外壁表面の温度分布をサーモグラフィーカメラで可視化することで劣化箇所を検出する手法です。タイルやモルタルが浮いて下地と剥離している部分は、内部に空気層があるため周囲より熱がこもりやすく、日中に温度が高くなる傾向があります。また、雨漏りなどで水分を含んだ部分は気化熱で周囲より冷える傾向があります。これらの温度差を赤外線カメラで捉えれば、 見た目ではわからないタイルの浮きや内部劣化も画像上で確認することが可能 です。

近年ではドローンに赤外線カメラを搭載し、建物の高所から広範囲まで効率的に撮影を行う手法が普及してきました。 ドローンを活用した赤外線外壁調査は足場を組む必要がなく、安全かつ短期間で広い外壁面を調べられるのが大きなメリット です。高解像度の可視画像と熱画像を組み合わせて記録できるため、劣化のエビデンス(証拠資料)を残しやすい点も利点です。実際、令和4年(2022年)には国土交通省も告示改正により「ドローンによる赤外線調査はテストハンマーによる打診と同等以上の精度を有する調査方法」として公式に認め、定期報告に活用できる手法として位置づけました。それ以来、ドローン赤外線調査は外壁点検の新たな主流となりつつあります。

もっとも、赤外線調査にも留意点があります。熱画像の解析には専門的な知識が必要であり、外壁の材質や天候条件によっては小さな浮きや細かなひび割れを見逃す可能性もゼロではありません。そのため、建物の構造や状況によっては 打診調査と赤外線調査を組み合わせて実施し、双方のメリットを活かすのが望ましい 場合もあります。例えば広範囲はドローンで一次調査を行い、異常が疑われる部分を人が近接して詳細に打診確認するといった方法です。いずれにせよ、外壁調査は専門資格や熟練経験を持つ調査員によって実施されるべきであり、得られたデータを適切に解析して初めて正確な診断が下せます。

※ドローン赤外線調査についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。

ドローン調査とは?外壁調査での活用メリットと法制度を解説

タイル貼り外壁の安全維持に向けて

タイル貼り外壁の劣化は避けられませんが、適切な時期に適切な点検を行うことで剥落事故のほとんどは防ぐことが可能です。建物の所有者・管理者は、法定の外壁調査時期を遵守するとともに、日常の目視点検で異常を感じたら早めに専門業者へ相談し、必要に応じて全面調査や補修対策を取ることが大切です。早期発見・早期対処を心がけることで、結果的に補修範囲や費用を最小限に抑え、建物の資産価値と安全性を長く維持できます。

外壁点検を依頼する際は、信頼できる調査会社を選ぶことが重要です。近年はドローンによる調査を行う業者も増えていますが、十分な建築知識と解析スキルを持った調査員が在籍するか、調査から報告書作成まで一貫して対応できる体制かといった点を確認すると安心でしょう。

弊社ドローンフロンティアでは、高性能ドローンを用いた赤外線外壁調査のサービスを提供しており、 撮影からデータ解析・調査報告書作成までの全工程を自社内 で行っています。そのため環境条件に応じた柔軟な調査スケジュール調整が可能で、精度の高い診断結果を迅速にご提供できます。また、 現場の状況に応じて打診調査と併用することも可能 です。ドローンによる赤外線調査が困難な箇所は、ロープアクセス等の打診調査を併用することで最適な調査手法を提案いたします。

タイル貼り外壁の劣化診断や安全対策でお悩みの際は、ぜひドローンフロンティアにご相談ください。経験豊富な調査技術者が、確かな技術と慎重・誠実な対応で建物の安全管理をサポートいたします。

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