建築基準法第12条では、不特定多数の人が利用する一定規模以上の建築物(特定建築物)について、定期的に建物の状態を調査し行政へ報告することが義務付けられています。いわゆる「12条点検」と呼ばれるこの制度は、建物の安全性や維持管理状況を継続的に確認する目的で設けられています。
その調査項目の一つに外壁調査があり、特に外壁材の剥落事故を防ぐため、 2008年の法改正以降は外壁の全面打診調査が新たに義務化 されました。鉄筋コンクリート造の建物などでは経年劣化で外壁仕上げ材(タイルやモルタル等)が浮いて剥がれ落ちる恐れがあるため、定期的な外壁点検によって早期に異常を発見し、安全を確保する必要があります。
※12条点検についての全般的な解説は、こちらの記事をご覧ください。
外壁調査の対象となる建物
外壁の定期調査(全面打診等)が義務付けられるのは、上述した特定建築物に該当する建物です。具体的には、不特定多数の人々が利用する大規模な建築物が対象で、例えば地上3階建て以上のマンション・共同住宅、オフィスビルや商業施設、ホテル・旅館、病院・福祉施設、学校・劇場・集会場などが挙げられます。これらの建物では外壁の老朽化によるタイル片等の落下が通行人に危害を及ぼすリスクがあるため、 外壁調査を含む12条点検の実施と報告が義務 となっています。
ただし、外壁の仕上げ工法が乾式工法(例:カーテンウォールや金属パネル等)の建物は構造的に外壁材落下のリスクが低いため、全面打診調査の対象外とされるケースがあります。一方で特定建築物に当てはまらない建物であっても、築年数が経過しタイル貼りやモルタル塗りの外壁を使用している場合は、事故防止のため自主的に外壁点検を行うことが望ましいでしょう。
外壁調査の実施周期(3年ごと・10年ごと)
12条点検における外壁調査は、その実施時期と頻度に特徴があります。法律ではおおむね10年に一度、建物外壁の全面にわたる詳細な調査(全面打診等)を行い、その結果を報告することが求められています。初回は建物の竣工または外壁改修完了から約10年後の定期調査時期が目安となり、その後も概ね10年ごとに全面調査を繰り返す必要があります。
また、それとは別におおむね3年に一度の頻度で、 手の届く範囲の外壁について打診などの点検を行う ことも告示で定められています。具体的には、地上から容易に触れられる低層部分やバルコニー等から接近可能な範囲の外壁については、定期報告(通常3年周期)ごとに部分的な打診調査や双眼鏡などによる目視調査を実施します。
そして建物が10年程度経過したタイミングで、それまで届かなかった高所も含めた全面的な外壁調査を行う流れです。このように短期サイクルの部分点検と長期サイクルの全面点検を組み合わせ、継続的に外壁の安全性を確認していくことが12条点検で求められています。
※12条点検の対象となる建物の種類と点検周期についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。
外壁調査が必要な範囲
では、「外壁全面打診調査」で点検すべき範囲とはどこまでを指すのでしょうか。法律上は、「外壁材の落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分」を全面的に調査するよう規定されています。一般的には、 建物の壁面高さの半分の水平距離以内に不特定多数が通行する道路や広場等がある場合、その直上の外壁は落下物が人に当たる恐れがあるため調査対象範囲 となります。端的に言えば、歩行者が建物のすぐそばを通り得る位置にある外壁面については、原則として建物の最上部まで全面的に点検しなければなりません。
一方、人が立ち入らない専用の植え込みスペースが建物周囲にあるなど、 万一外壁片が落ちても人に当たらない構造になっている部分の外壁については、その範囲に限り全面打診の対象外 とみなされることもあります。また、法律上例外として認められているケースもあり、例えば「調査期限から3年以内に外壁改修工事または全面打診を実施する計画が確実な場合」や「落下防止ネットの設置など別途安全確保の措置が講じられている場合」には、一時的に全面打診調査を省略できる可能性があります。
しかしこれらはあくまで例外措置であり、根本的な外壁の劣化リスクを除去するものではありません。基本的には、人が利用する空間の上に位置する外壁は 定期的に詳細調査を行い、落下事故の未然防止に努めることが重要 です。

外壁調査の主な方法
外壁全面調査の手法としては、主に次の2種類があります。
打診調査
専用のテストハンマーなどで外壁を叩き、その反響音によって内部の浮きや剥離を判定する方法です。経験を積んだ調査員の聴覚と技術により異常の有無を判断します。低層階であれば脚立や高所作業車で比較的容易に打診できますが、 中高層の建物全体を調査するには足場やゴンドラを設置する必要があり、大掛かりで費用も高く なります。
ただし、 物理的に触れながら調査するため精度は高く、調査と同時に劣化部位の補修作業を実施できるという利点 もあります。そのため外壁改修工事(大規模修繕)とタイミングを合わせ、足場を組んだ際に全面打診調査を行うケースが多く見られます。
赤外線調査
赤外線サーモグラフィーカメラを用いて外壁表面の温度分布を測定し、異常箇所を非接触で検出する方法です。日射によって外壁仕上げ材と躯体コンクリートとの間に空隙がある部分は、健全部と比べて昼夜の温度変化に差異が生じます。その温度ムラを赤外線画像で捉えることで、タイルやモルタルの浮き部分を発見できます。赤外線調査は 足場やゴンドラを使用しないため、打診法と比べ調査コストを抑えつつ安全かつ短期間で広範囲を点検できるのが大きなメリット です。
従来は地上三脚からの撮影で高所ほど解析精度が低下する課題がありましたが、 2022年からドローン(無人航空機)による外壁赤外線調査が国土交通省告示で明確に認められ、技術ガイドラインも整備 されました。ドローンに搭載した赤外線カメラを用いれば高層部まで接近して撮影できるため、従来困難だった高所の測定精度向上や外壁の複雑な形状にも対応可能となり、打診と同等以上の精度で劣化箇所を特定できると期待されています。
ただし赤外線法はあくまで診断手法であり、浮きが見つかった箇所の補修そのものは別途工事が必要です。調査後の補修計画まで見据えて、必要に応じて打診による現地確認や部分補修と組み合わせて活用されることもあります。
※12条点検における外壁調査の費用についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。
外壁調査を怠った場合のリスク
外壁の全面打診調査は法律で定められた義務であり、正当な理由なく実施・報告を怠れば建築基準法違反となります。万一、必要な時期に外壁調査を行わず定期報告を怠った場合、100万円以下の罰金という罰則が科される可能性があります。また、外壁調査を実施しないまま放置して劣化が進行し、もしタイルやコンクリート片が剥落して通行人などに被害を与えた場合、 建物所有者・管理者が多大な損害賠償責任を負うだけでなく、最悪の場合人命に関わる重大事故 につながりかねません。
実際に過去にはビル外壁タイルの落下事故で歩行者が死亡する痛ましい事例も発生しており、こうした事故を教訓に外壁点検の徹底が強く求められるようになりました。外壁調査の未実施は法的リスクと安全上のリスクの双方を孕むため、 義務付けられた調査は確実に履行することが何より重要 です。
外壁調査は信頼できる専門業者へ依頼を
以上のように、12条点検における外壁調査は建物の安全維持に欠かせない重要なプロセスです。調査は有資格者(一級建築士・二級建築士または特定建築物調査員)によって実施され、専門的な知識と技術、さらには高所での作業経験が求められます。建物の所有者自身で対応できるものではないため、必ず実績のある専門業者に依頼するようにしましょう。近年ではドローンなど新技術の活用で調査効率も向上していますが、それらを適切に運用できるかも含めて業者の技術力・信頼性を見極めることが大切です。
弊社ドローンフロンティアでは、 赤外線カメラ搭載ドローンを用いた外壁の非接触赤外線調査から、高所作業技術者によるロープアクセス(ブランコ作業)での直接打診調査まで実施可能 です。対象建物の構造や状況に応じて最適な手法を選定し、安全かつ確実に外壁の劣化診断を行っています。赤外線調査だけでなく必要に応じて打診調査も組み合わせることで、精度の高い調査報告書をご提供することが可能です。12条点検における外壁調査の実施についてお困りの際やご不明な点がありましたら、ぜひ慎重で信頼性の高い調査を提供するドローンフロンティアにご相談ください。
