建物の安全を確保するためには、ドアやシャッターなどの防火設備が火災時に確実に機能することが重要です。そのため、多くの人が利用する一定規模以上の建築物では、法律により定期的な「12条点検」の実施が義務づけられています。12条点検では防火設備も専門技術者による点検と行政への報告が求められます。
本記事では、 防火設備点検の概要や重要性、実施方法について解説 しています。
12条点検とは何か
「12条点検」とは、建築基準法第12条に基づく建築物の定期点検・報告制度のことです。不特定多数の人が利用する劇場や百貨店、ホテル、病院、マンションなど特定建築物と呼ばれる建物の所有者・管理者は、一定期間ごとに専門資格を持つ調査員による点検を受け、その結果を所管の行政庁に報告する義務があります。建物は竣工後も経年劣化や改修による状態変化が生じるため、定期的に専門家が安全性を確認し是正措置につなげることが目的です。
12条点検の対象となる項目は建築物の構造、安全設備全般にわたり、大きく分けて「建築物本体」「建築設備」「防火設備」「昇降機等」の4区分があります。防火設備点検はこのうちの一つの区分として位置づけられており、他の設備(換気設備・排煙設備・非常照明・給排水設備など)やエレベーター等の点検とあわせて 法令で義務付けられています。 12条点検は有資格者しか実施できない法定点検であり、自社に資格保有者がいない場合は外部の専門業者へ依頼しなければなりません。
※12条点検についての全般的な解説は、こちらの記事をご覧ください。
防火設備とはどんな設備か
建築基準法でいう防火設備とは、火災時に延焼や煙拡散を防ぐため設置された戸やシャッター等の設備を指します。具体的には、建物の開口部に設けられた防火扉・防火シャッター、天井などに設けられる耐火クロススクリーン、屋外に水のカーテンを作るドレンチャー設備等が該当します。
これらの防火設備は平常時は開放状態または待機状態にあり、火災を感知すると自動的に閉鎖・作動して炎や煙を遮る仕組みです(温度ヒューズ式のもの等も含まれます)。なお、ここでいう 防火設備は消火器やスプリンクラーなど消防法に基づく消防用設備とは異なるため注意 してください。
防火設備点検の内容と方法
防火設備点検では、建物内に設置された全ての防火設備について、正常に作動するか、また作動を妨げる不具合がないかを確認します。
具体的な点検内容としては、防火扉なら扉や蝶番の破損・劣化の有無、閉鎖動作の確認、防火シャッターなら設置位置や周囲に障害物がないか、降下に支障がないかをチェックします。耐火クロススクリーンはスクリーンやその巻き取り装置の損傷・劣化の有無、シャッターケース周辺に物が置かれていないかを確認します。ドレンチャー等の水幕設備であれば、貯水槽や配管の腐食・水漏れ、開閉弁やポンプの動作状況などを点検します。点検では火災感知器や連動制御装置とも連携させ、実際に試験的に作動させてみて、確実に閉鎖・遮断できることを専門技術者が確認します。併せて、安全装置(シャッターの非常停止ボタン等)が適切に機能するか、人が通行する防火扉であればスムーズに開閉できるか、といった点も確認します。
点検結果は所定の様式にまとめられ、不備があれば修繕等の対応が求められます。
防火設備点検の実施時期・周期
防火設備の定期点検および報告は、法律上少なくとも毎年1回行うことが義務付けられています。新築建物の場合、初回の防火設備点検は竣工後2年以内(検査済証交付から2年以内)に実施し、その後は 原則として毎年1回の頻度で継続して点検・報告 を実施する必要があります。報告の時期(報告年度)は建物の用途などにより行政から指定されますが、いずれの場合も1年を超えない間隔で定期的に点検するのが条件です。
防火設備以外の12条点検項目(建築設備や昇降機等)も同様に毎年の点検が基本となっており、建築物本体の外壁や構造部分に関する点検(特定建築物定期調査)が3年ごとであるのに比べて短いサイクルが設定されています。これは、防火設備が火災時の人命安全に直結する重要な設備であるため、 常に確実に作動する状態を維持する必要がある からです。
点検のあとは、所定の様式で「防火設備定期検査報告書」を作成し、各自治体の指定窓口へ提出します。

防火設備点検の重要性と法的義務
防火設備点検を確実に実施することは、建物利用者の安全を守る上で不可欠です。火災時に防火扉やシャッターが正常に閉まらないと、煙や炎が拡散して避難時間の短縮や被害の拡大を招きかねません。実際に、平成25年に福岡市で発生した病院火災では、防火扉が開いたままで煙が拡散し多くの犠牲者が出たことが指摘されました。このような事故を教訓に、 平成28年の建築基準法改正で防火設備の定期検査報告制度が創設 され、専門的な点検と行政報告が義務化された経緯があります。
法的にも、防火設備点検(12条点検)は建物所有者等の責務であり、怠ると建築基準法違反となります。定期報告を実施しなかったり虚偽の報告を行ったりした場合、最大で100万円以下の罰金等の罰則が科せられる可能性があります。また、防火設備の不具合を放置して火災時に作動しなかった場合には人的被害や損害賠償にも直結しかねません。 定期点検を通じて不備を早期に発見し是正しておくことは、法令遵守はもちろん事故防止の観点からも非常に重要 です。
12条点検は専門業者へ依頼を
以上のように、防火設備点検を含む12条点検は高度な知識と資格を持つ専門家によって実施される法定業務です。そのため、対象となる建物を所有・管理している場合には、信頼できる専門業者へ点検を依頼し、確実に報告を実施することが大切です。建築士(一級・二級)や防火設備検査員などの資格保有者が在籍し、12条点検の実績が豊富な業者であれば、調査から報告書作成までスムーズに対応してくれるでしょう。
なお、建物の安全性を総合的に維持するためには、防火設備以外の劣化調査や点検も適切に行う必要があります。例えば外壁タイルの剥落事故を防ぐため、 建築基準法では10年ごとに外壁全面の調査(打診等)を行い報告することも義務づけられています。 弊社ドローンフロンティアでは、赤外線カメラ搭載のドローンによる非接触の外壁調査だけでなく、ロープアクセスによる近接打診調査にも対応可能で、調査対象となる建物に最適な手法で劣化診断を実施しております。建物の定期調査や維持管理でお困りの際は、ぜひドローンフロンティアにご相談ください。
