東京・足立区を拠点に、日本全国対応にてドローンソリューションサービスを提供しているドローンフロンティアです。
建築基準法第12条に基づく定期点検、いわゆる「12条点検」では、調査項目の中に外壁調査が含まれています。これまで外壁調査といえば打診調査が主流でしたが、数年前より赤外線調査も正式な調査として認められるようになり、ドローンを活用した赤外線調査の導入が増えつつあります。
そこで今回は、ドローンフロンティアが業務提携する佐藤マンションサポートの佐藤稔氏に定期点検におけるドローンの可能性についてお話を伺いました。
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株式会社佐藤マンションサポート 代表取締役 佐藤稔氏(一級建築士)
1995年 東京理科大学工学部二部建築学科卒
在学中、日中は準大手ゼネコンにて現場管理に勤しむ
卒業後、マンション維持保全を生業とする老舗の設計事務所に勤務
2017年 同業他社設計事務所にて、代表取締役に就任
2020年 マンション管理士事務所『佐藤マンションサポート』 創業
2021年3月 一級建築士事務所登録
4月 株式会社佐藤マンションサポート設立(4月9日の大安吉日)
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定期点検でよく見受けられる劣化箇所について教えてください
12条点検は不特定多数の人々が利用する建物の安全を確保するために行われます。
対象となる建物は、構造の種類というより規模の大きさで決まってきます。細かい基準は自治体ごとに異なりますが、大規模なコンクリート造の建物は12条点検の対象となるケースが多いです。コンクリート造の建物によくみられる劣化の症状としては以下のようなものが挙げられます。
⓵コンクリートの劣化
コンクリートの経年劣化は、自然現象ともいえます。そもそもコンクリートとはセメント・砂利・砂・水を入れて作られるもので、時間の経過とともに乾燥収縮して縮んでいく性質があるため、ひび割れが避けられない構造体です。
12条点検で一番多く見られる劣化はコンクリートのひび割れとなります。
コンクリートにひびが入ると、そこから雨水などが入り込み中の鉄筋を錆びさせてしまいます。コンクリートは圧縮力には強いですが引っ張り力には弱いため、鉄筋が錆びると膨張します。その結果コンクリートが欠損したり鉄筋爆裂などの不具合が起きることがあります。
⓶外壁タイルの劣化
タイルや石などの外壁材が剥がれ落下する事故は多数起きています。
剥離とまではいかなくても、タイルの内側に空気層を含んでいる劣化はよく見られます。
タイルの剥離は近年の工法の変化によって起こりやすくなってきています。
かつてはコンクリートを打つ際の型枠に継板を使っていたので表面がガタガタしていました。
そのことにより型枠を剥がすとがたがたしたコンクリートの表面になり、外壁材がはがれにくくなっていました。(※がたがたしていると接着剤がしっかりとくっつくからです)
それがある時期から型枠にベニヤ板を使う場合が多くなってきました。これまでの継板では型枠撤去時に剥がしにくかったところを、ベニヤ板を使うようになって剥がしやすくなり、さらに綺麗にはがせれば他の現場にも転用できるなどのメリットが生まれました。しかし、型枠を撤去した際のコンクリートがガタガタせずつるんとした躯体になったおかげで、外壁材の接着が弱くなってしまいました。工事のしやすさと引き換えにタイルが剥がれやすくなってきていることも事実です。
定期点検におけるドローンの有用性について教えてください
ドローン活用の需要が高まる背景として建設業の人出不足の問題があります。建設工事では人工(にんく)の確保が大事です。現場に人が行かないと診断もできないし、その後の修繕工事もできません。診断をしてすぐに修繕に取りかかることができればいいのですが、時間が空いてしまうと足場を設置する期間が長くなりコストが上がってしまいます。
また、建設現場の人出不足に加えて10数年前から足場代も高騰しています。足場を組んでの定期点検コストはオーナー側への大きな負担となってきているといえます。
12条点検においては最初から足場を組んで隈なく全部点検をするのではなく、一度ザーッとでもいいからコストをかけずに全体として見ることが大事です。ドローンによる赤外線調査のレベルは高くなってきているので、目視・触診・打診をやらなくてもタイルの浮きやハラミ、劣化状況をかなりの精度で把握できます。
これらのことを考えると、全体の状況を俯瞰で把握するためにドローンを活用することは価値があるのではないでしょうか。
打診調査・ドローンによる赤外線調査、それぞれのメリットデメリットを教えてください
外壁調査といえば打診調査一辺倒だった時代がしばらくは続いていたので、赤外線調査が登場した時は正直「赤外線で調査なんかできるわけがない」と思っていました。その頃はまだドローンもなく、地上から人が赤外線カメラで撮影するスタイルでした。
ただ、私の仕事上の恩師である人が赤外線調査に対して前向きで、赤外線の技術を外壁調査に応用することを常に考えていました。そのようなこともあって、私も赤外線調査の現場には積極的に立ち会うようにしていました。
赤外線調査のメリットは全体を一覧できることと、画像によって調査記録を残せることだと思います。ざっと見ただけでは細かいことまではわかりませんが、少なくとも何らかの異常がある場所は特定できるので、そこをさらにチェックしていくことで調査を補えばよいという考えですね。
赤外線カメラによる撮影では何百何千枚という画像を撮ることになるので、その記録量はすごいですよね。打診調査でも漏れが出るようところも、ドローンを使った撮影では全てをカバーしてくれます。ロープアクセスによる打診調査にしても、結局は一人の人間の主観ですが、赤外線データの撮影画像は複数の人と共有できるので、ダブルチェックができるというメリットもあります。
工期やコストも削減できることはもちろんですが、データの量や客観性などを考えるとドローンによる外壁調査はものすごく価値があると思います。近年では赤外線カメラの価格も下がってきているので、昔よりも導入のハードルが下がってきている印象です。
定期点検を任せる業者選びについて一級建築士の目からいえることがあれば教えてください
ドローンを活用した赤外線調査は、費用面、工期面、そして調査の精度についてもおすすめです。業者選びで気をつけたいこととしては、ドローンや赤外線カメラに関する技術に長けているだけではなく、建築に関する専門知識をきちんと持っているところかどうかです。
実際に私もいくつかの業者にお話を伺ったことがありますが、ドローンの可能性や赤外線カメラの精度について熱く語るばかりで、建築に対してそこまで踏み込んだ話はないことがほとんどです。
しかし、ドローンフロンティアは社員の方もひび割れや爆裂の原因・対策など、建築の知識にも精通していて専門的な話に踏み込んでいました。ドローンの会社の中では稀なことなので少しびっくりしましたし、またこの会社とであれば一緒に組んでやれるなと思いました。
ドローンフロンティアのように、外壁の劣化の原因や対策にまで思いを馳せるような会社に頼むことが重要です。熱量がないところには時間をかける価値がないと思っています。
マンションの法定点検の周期と修繕の周期のズレについてどう思いますか
これまでは足場代を無駄にしないために法定点検の周期とマンション修繕の周期を合わせようとするのが一般的でした。
ガイドラインでは法定点検は10年、大規模修繕は12年周期なので、2年早いけれど法定点検と一緒に修繕もやろうという流れがありました。しかし、本当は2年後でいいところを早くやってしまうので、長い目で見ると修繕費用がもったいないのではないかという意見もあります。
そこで、法定点検のタイミングではドローンだけでやろうという話が有効になってきます。
ドローンによる法定点検では足場を組む必要がないので、点検実施のハードルが下がります。
点検のタイミングと修繕のタイミングを別々に考えられるという意味で、ドローンの活用はますます広がるのではないでしょうか。