建物の所有者や管理者は、建物周辺環境に対して安全を配慮することが義務づけられています。
しかし近年、外壁からタイルが落ちる事故が相次いで発生していることをご存じでしょうか。
2023年4月には、北九州市で市立小中学校や市営住宅で外壁のタイルが落ちる事故が相次いで発生しており、市が保有する2402施設に点検を実施した結果、438施設が修繕や応急措置の必要がある施設だと判明しました。「自分の保有する建物の外壁は大丈夫だろう」と思うかもしれませんが、どの建物でもさまざまな原因により外壁からタイルが落ちる可能性はあります。
この記事では、外壁からタイルが落ちる原因や、落ちた場合に発生する問題、外壁からタイルが落ちる前に実施できる対策方法について解説します。
外壁からタイルが落ちる原因
ビルの外壁を見ながら歩いている時、外壁に貼られているタイルの一部が剥がれて内側の外壁がむき出しになっている状態を見かけたことはないでしょうか。外壁に貼られているタイルが剥がれ落ちることを剥落(はくらく)と呼びます。
外壁からタイルが剥落する原因は様々ですが、タイルがモルタルから浮いている状態から剥落するのが通常です。タイル自体の経年劣化で外壁から落ちるのではなく、さまざまな原因でモルタルとタイルの間の浮きが悪化することで外壁からタイルが剥落します。
モルタルからタイルが浮いて最終的に落ちる原因としては、主に以下の3つがあります。
タイル剥落に繋がる浮きの原因①経年劣化
施工されてから現在に至るまで、建物は長年の風雨や紫外線にさらされ続けている状態です。そのため、タイルの強度や接着剤に経年劣化が発生することで外壁からタイルが剥落することがあります。特に、築10年以上経過した建物は要注意です。
タイルや接着剤の劣化による影響は、以下のような状態として発生することがあります。
- タイル表面の劣化
- 紫外線による色あせ、ひび割れ、剥落
- 雨水による浸食
- 凍結膨張による破損
- 接着剤の劣化
- 接着力の低下
- 剥離
タイル剥落に繋がる浮きの原因②施工不良
建設中に行われたタイルの貼り付けや目地処理などのタイル貼り付け処理が不十分な場合、施行から浅い年月でもタイルが剥落する可能性があります。施工業者の選定には十分な注意が必要です。
外壁からタイルが剥落しやすい施工不良としては、接着剤の塗布量不足、タイルの貼り付け位置の不正確、空洞の発生、目地材の充填不足や劣化などがあります。
これらの不良状態でモルタルと外壁の間に水が侵入したり紫外線を浴びたりすると、更にタイル剥落のリスクは高まり、加えて建造物自体の寿命も短くなっている可能性も否定できません。
国土交通省は外壁からタイルの剥落を防止するタイル張り工程の主なチェックリストとして、以下のようなものを提示しています。
- 目地深さはタイル厚さの1/2以内か。
- 下地はひび割れ、浮き、汚れがなく、亀裂誘発目地は正しい設置されているか。
- 下地の材齢や含水状態、下地精度には問題がないか。
- タイル張りはオープンタイムで適切なモルタル充填度か。
- 接着強度は4kgf/cm2以上の接着強度を有しているか。
タイル剥落に繋がる浮きの原因③地震や台風などの自然災害による影響
強風や地震などの自然災害の影響を受けることでも、タイルが浮きやすい状態を作り出します。
例えば台風の強い風によるタイルへの直接的なダメージや、地震に伴う建物への揺れによるタイルへの負荷などが実際に起こり得る現象です。
また、雨水がタイルの裏側に浸入することでもタイルと接着剤が劣化するため、よりタイルが剥落しやすくなります。
経年劣化や施行不良がある状態で自然災害の影響を受け、とどめを刺されて外壁からタイルが落ちることは珍しくありません。
外壁からタイルが剥落した時に発生する問題
万が一外壁からタイルが剥落した場合、ただタイルが落ちるだけではなくさまざまな問題が発生します。具体的にどのような問題が発生するのか、まとめてご紹介します。
外壁からタイルが剥落した場合の被害
タイル剥落時にもっとも恐れるべき被害は、直下に居る人への死傷事故に繋がることです。人の上に落ちるタイルは人命を奪う凶器にもなり得るため、被害の深刻さを認識し、適切な対策を講じなければいけません。
平成元年11月には、北九州市のRC造地上10階建て共同住宅で、塔屋部分のタイルが幅約8.5m×高さ約5mにわたり、約31m下に剥落した事故では2名が亡くなり、1名が重傷を負う死傷事故が発生しました。特定行政庁の調査によると、平成22年から平成31年(令和1年)の間に発生したタイル剥落事故は58件に上ります。これらの事故では28名が巻き込まれ、残念なことにこのうち1名が命を落としています。
事故の中では死傷事故には繋がらなくとも、周辺の車などに損害を与えてしまうケースも多いです。このような場合は所有者や管理者は損害賠償責任を問われる可能性もあります。
また、タイルが剥落した場合は必要に応じて、タイルの補修や修繕を行わなければいけません。
タイルの剥落状況にもよりますが、最低でも数万円以上の修繕費用はもちろん、他のタイル等に異常が無いかを全体的に確認するための調査費用や第三者への被害がある場合は慰謝料などが発生します。
そして、外壁からタイルが剥落した状態はモルタルがむき出しになっている状態です。そのため、雨漏りや断熱効果の減少などが発生することもあります。修繕が完了するまで、空調整備などで電気代がかさむこともあるでしょう。
外壁からタイルが落ちる前に行える対策方法
外壁からタイルが落ちる前に予防する方法は、定期的に外壁調査を実施することです。外壁調査はただ目視で落ちる可能性が高いタイルを確認するだけではなく、目視では確認しきれないタイルの浮きや剥離などを調査します。
外壁調査の結果次第ではタイルが落ちる前に必要に応じて対処できるため、定期的な調査を行わず事故発生後に修繕するよりも、低コストかつ安全にタイル剥落を防止できます。タイルの剥落を防ぐためには、定期的な点検と調査が重要です。
専門家による外壁調査
専門家による外壁調査では、以下のような項目をチェックします。
- タイルの浮きやひび割れ、劣化状況
- 目地の劣化や欠損、破損
- シーリング材の劣化
- 壁体の状態
- 雨水の浸入状況
- 浮きやひび割れの有無
外壁調査は専門知識と経験を持つベテラン調査員によって行われるため、より詳細な現状を把握可能です。調査後に共有される報告書の内容に応じて適切な補修や修繕を行うことで、外壁からのタイル剥落を防ぐことができます。
異常が発見された場合は浮きやひび割れの補修や目地の打ち替え、欠損や破損の補修、シーリング材の打ち替え、防水対策、タイルの張替えなどを行う必要があり、修繕費用が発生するのは事実です。
しかし、長い目を見て考えてみましょう。
事故が発生した後のリスクやコスト、そして小さな異常から大きな異常に派生した後の莫大な修繕費用などを考えると、こまめに小規模な修繕を行った方がコストパフォーマンスに優れています。そのため、なるべく定期的な外壁調査の実施がおすすめです。
タイルが落ちる前に外壁調査を
専門家による外壁調査は一般の人では見つけにくい問題点を発見でき、その上で調査結果に基づいて、適切な対策を講じることができる外壁からタイルが落ちる前にできる数少ない対策です。定期的な外壁調査は早期に対策を講じるために不可欠な調査でもあります。
外壁からたった1枚タイルが剥落しただけでも、死傷事故に繋がりかねません。建物の所有者や管理者に求められる安全配慮義務を果たせるよう、少しでも違和感を感じたら早急に外壁調査を実施しましょう。